われる・ゆがむ・かける~不完全の美

みなさま、ごきげんよろしゅうございます。
8月末日、夏もいよいよ終わりです。
暑さが苦手なので、夏に特別な思い入れはないのですが、
一つの季節が終わるというのは、
一抹の寂寥感を覚えるものです。
8月末の美術館は、どういうわけか小中学生がたくさん来館しています。
夏休みだから当たり前か、と思っていたら、どうも切羽詰っている様子。
中には必死になって、展示物をスケッチしている子も。
そうですね、夏休みの宿題ですよね。
みんなガンバレ!
必死の形相をした子供たちの多かった国立西洋美術館とはうらはらに、落ち着いた客層だった出光美術館。
「躍動と回帰―桃山の美術」展、開催中です。
日本の美・発見X 躍動と回帰ー桃山の美術 (出光美術館HP)
展覧会名だけ見ると、何の展示をしているのかわかりませんが、
日本画や茶道具を多く所蔵する同館で、今回企画されたのは、
戦国期~桃山期~江戸初期、とかなり幅広い文化区分を網羅した、
志野・唐津・高取・備前・織部などの茶道具を中心としたやきものと、屏風絵の展示会です。
躍動とは、本来であれば失敗とみなされる、欠け・割れ・歪みを生じた(または故意に生じさせた)器に、
不完全の美を見出す。という日本独特の美意識を表しています。
また、もう一方の視点・回帰とは、桃山期に花開いた茶の湯の文化を背景にした、やきものの数々の造形が、
実は平安・鎌倉期に日常的に使用されていた器の造形を、
西欧の美の基準を刷り込まれてしまった現代人には、わかりづらい感覚かもしれませんが、
不完全さを尊ぶという発想は、日本独特のもので、
文化面で多大な影響を受けた中国にも見られない思想なのです。
たとえば 今回出品されている南宋時代の禾目天目茶碗と、
桃山期の黒楽茶碗とは、同じ黒地の茶碗でありながら、
均一なロクロ成型で、光沢のあるムラのない釉薬で仕上げた中国製と、
手びねり成形、マットな質感の黒釉薬仕上げの日本製。
お隣同士の国なのに、「黒の茶碗」一つとってもこんなにも美しさの基準が違っています。
出雲大社本殿の天井に描かれた雲は「八雲」なのに7つしありません。
また、日光東照宮陽明門の逆門は、あえて一本だけ柱が逆に付けられています。
完成は崩壊の始まりと考える、日本独自の発想なのです。
パーフェクトを求める大陸の価値観とは違い、
あえて完成を求めない、という古来からある日本の価値観は、
そのままキズや欠けを愛でる日本人ならではの、独特の美意識を生み出したともいえます。
中国製の青磁器とそれをお手本としながら、まったく異質の美を作り上げてしまう。
さらに言えば、別の形を作るだけではなく、美しいと感じる基準すら大幅に変えてしまった、
戦国・桃山期の日本人の感性のダイナミズムには、脱帽です。
他人が決める評価に右往左往しがちな現代人の目から、鱗を落としてくれる作品の数々。
所蔵品を中心とした比較的小規模な展覧会ですが、桃山文化を斬新な切り口で鑑賞できる、
良企画となっています。
会期は10月12日(月・祝)までです。
文責/篠井 棗
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