大正デカダンの妖華・橘小夢

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みなさま、ごきげんよろしゅうございます。

列島を豪雨が襲ったかと思えば、

梅雨の合間の晴れ間が広がったり・・・

毎朝の天気予報を見るまでもなく、

折りたたみ傘が手放せない毎日が続きます。

外出どころかお洗濯すらままならない、鬱陶しい季節です。

 

 

 

橘小夢という画家をご存知でしょうか

大正から昭和にかけて耽美的な画風で人気のあった画家で、

肉筆画の他、版画や本の装丁、挿絵などで活躍しました。

 

官能的で妖美妖艶な画風で一部の好事家に愛好されていましたが、

関東大震災で多くの作品が失われたこともあり、一般的にはあまり知られていませんでした。

しかし近年、黒田清輝に洋画を、川端画学校で日本画を学んで身に着けた、

確かな技術によって描かれた、退廃的な作品の数々が、再評価されています。

 

現在、本郷の弥生美術館で、大規模な回顧展が開催中です。

 

幻の画家「橘小夢展」 人の不可解さ暴く官能美 (産経ニュース)

 

まず圧倒されるのが、一貫して描かれている、「ファム・ファタル“宿命の女”」の、

退廃的な美しさと恐ろしさです。

西洋のファム・ファタルと違って、自らの意志で男を誘惑して惑わすのではなく、

抗いがたい男女の宿命に翻弄される美しき女たちを緻密に描き出した、

稀有な画家であろうと思います。

 

また、実物を目の当たりにして驚かされるのは衣装の描写です。

小夢は男性の画家なのですが、着物の文様に対する執拗なまでの描き込みは、

着るものや飾るものに執着する女性性を強く感じます。

印象派などの西洋絵画は作品から少し離れて鑑賞するもの、と教えられますが、

小夢の作品は、至近距離でじっくり舐めるように見た方が、より堪能出来るようです。

 

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今回の展示作品の中では、例えば「苅萱物語」の愛妾二人。

心の中に渦巻く嫉妬の具現化が、毛髪の無数の蛇となって表現されています。

キャプションの説明はそこまでで終わりですが、二人の打掛をよく見ると、図柄が桜と紅葉になっていて、

春と秋の対立になっていることがわかります。

 

その他、晩年の代表作「地獄太夫」の地獄絵が描かれた太夫の打掛など、

衣装の凄まじさは一見価値があります。

大正ロマンの代表的画家・竹久夢二が、

流行最先端のモダンな図柄の浴衣や半衿をデザインしたのとは対照的に、

小夢は日本の湿潤な情念を描く手段として、伝統文様を多用していたようです。

同館の隣には竹久夢二美術館が併設されています。

ぜひ二人の画風を比較しながら鑑賞してみてください。

 

個人的には、正規の絵画教育を受けていないためデッサン力不足の否めない夢二の女性像よりも、

確かな技術を駆使して、縦横無尽に描かれた小夢の女性像の方が、

より強烈な官能性を醸し出していて、好みではあります。

 

趣味性の高い作風の画家は、ともすればテクニックをないがしろにした拙い絵を描きがちです。

しかし、小夢の場合、自らの嗜好を客観的に見据えていたからなのか、

鑑賞者の審美眼に応えうる、確固たる技量をベースに、

妖艶妖美を見事に描き切っているところが最大の魅力と言えるでしょう。

 

展覧会の開催期間は今週末まで。初の画集も出版されています。

興味のある方はぜひ一度、妖美の世界を覗いてみてください。

 

文責/篠井 棗

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